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映画館の無い街でおたくが七転八倒

『ベイビー・ブローカー』再生産の美学

是枝裕和監督期待の最新作『ベイビー・ブローカー』を見ました。

年配の方を中心に結構お客さんは入ってた印象。

 

2019年公開の『真実』に引き続き、海外製作の映画となりました。

『真実』はフランス・日本合作の扱いでしたが、今回は韓国単独製作。

 

ひきつれていったクルーも、通訳以外ほとんどが現地の若いスタッフということで、是枝監督は本当に後進(人材)のことを考えて映画撮ってるなぁと快い気持ちになりますねぇ。

現場は実働8時間程度でめちゃくちゃホワイトだったらしいです。

映画ナタリー「ベイビー・ブローカーメイキング写真より引用 https://natalie.mu/eiga/gallery/news/478255/1823483

雑なあらすじ

赤ちゃんポスト”に捨てられた赤ん坊をめぐり、血のつながらない共同体が韓国全土を旅するロードムービー

 

感想

観客が『ベイビー・ブローカー』というタイトルから期待するものが物語られているとは思わなかったです。

「特殊な稼業をつまびらかに見せてほしい」期待には応えず宙ぶらりのまま終幕します。

(結局物語中、1回も子供売る場面出てこないからね)

 

が、主題はそこではなく、家族の再構築がなされるプロセスの方でした。

いつもの是枝監督。

雨:雨だれの違いは家族:疑似家族共同体のアナロジーになっていて、とても美しくかったです。

 

最初から最後まで徹底して、本心を言うときに顔を見合わせない演出が印象的で良かったです。

  1. 新幹線のトンネルシーン
  2. 観覧車で目隠しをするシーン
  3. 暗闇で「生まれてきてくれてありがとう」と言い合うシーン

陰影の使い方と台詞のかぶせ方がセンス良すぎてえげつないな…と思ってたらクライマックス(3)でついに暗闇になったので、カタルシスで昇天するかと思いました。

 

不満点

リプロダクティブ・ヘルス&ライツがこれだけ取りざたされる今、妊娠させた側の加害性に踏み込み不足が感じられました。

ただ殺されるだけで禊終わったと思われちゃ困るね、こちとら。

母親の人生は一生続いていくし、塗り替えられないんだ。

 

あと施設の男の子・ヘジンのキャラクターがうまく機能してなかったと思います。

疑似家族をそれらしいバランスに保つためだけに配置されてるように見えて、あざとさの方が目に付きました。

ヘジン役の子自体は好演してたので、もうちょい見せ場を入れてほしかった。

編集で落とされているような気がする。

 

万引き家族』との相似

GQ カンヌ国際映画祭写真レポートより引用 https://www.gqjapan.jp/culture/movie/20180519/cannes-film-festival-2018-may-16



見た人のほとんどが感じてると思いますがやっぱり『万引き家族』に似てます。

家父長制への反発によって崩壊した家族と、イミテーションの絆によって再構築される新たな家の話。

2作品どちらともに当てはまりますよね。

 

文庫版読みたいな

 

この相似に関しては監督も意図しているらしく、『万引き家族』『そして父になる』で母性の描き方を叩かれたことが今作を作るきっかけになったらしいです。

 

確かに、父性は後天的かつ能動的にふるまわないと付与されないものとして描いてる割に、母性は天性のものとして神格化しすぎているきらいはあるかも。

それでも『おおかみこどもの雨と雪』とかに比べたら全然不快さのないレベルだと思いますが。

(『おおかみこども~』に対する憎しみはいずれどこかのタイミングで語りたい…)

 

さらに今作はソン・ガンホと一緒に何かやりたい!というところから始まっています。

撮りたいストーリーがあったというよりも、「自分の作風と役者のケミストリーを確認したい!」って感じの動機が強いんでしょうね。

手癖で同じようなシーンをパッチワークしてる印象が強いのもむべなるかな。

それぞれがオスカーとパルムドール獲得後。

ノリにノってる座組みだからこそうまれた、いい感じの抜け感が作品に通底しています。

 

“Ozuの孫”は日本を捨てたのか

 

万引き家族』を再生産することによって、是枝監督と日本映画界との決定的断絶がつまびらかになった印象はぬぐえません。

しかしながら日本的(つまり小津安二郎成瀬巳喜男的)ムードだけは輸出され続け、我が国の映画文化は今後空洞化の一途をたどることになる、という懸念は穿ちすぎでしょうか?

 

是枝監督自身は相当なシネフィルでもありますから、もはやどの国で何を撮ろうがそこに付随するイデオロギーにはあまり執着していなさそうに思えます。

だからこそ自由闊達な映画製作現場を取り戻さないと、才能の流出は避けられない。

 

どうすんでしょうね、日本映画。

いち観客にはなにもできることはないけど、不安に感じてます。

 

キャストあれこれ

カン・ドンウォン

まずはドン君!私の大好きなカン・ドンウォン

大画面でドン君の顔を見られるだけでもう文句無しなのですが、今回のヘアスタイルは個人的に好みじゃなかった…

『華麗なるリベンジ』の髪形をラフにした雰囲気。

 

 

でもこの間息子のヘアカットするとき一応ちょっと意識して寄せた…ごめんね息子。

この髪形って海軍の徴兵ヘアーなんですかね?

 

全体的に体躯のデカさと気の優しさが相反してて愛おしかったです。

これはソン・ガンホも同じなので、意識的にミラーになるようにキャスティングしてるような気がします。

疑似親子になっていく過程に違和が無かった。

 

 

ぺ・ドゥナ

マジでぺ・ドゥナになりてぇというのは置いといて、今回も不機嫌な顔が可愛かったです。

『私の少女』で携えていた刑事としての高潔を、今回はバディである後輩刑事が継承してように見えて趣深い気持ちになりました。

これはファンの深読み幻覚ですがね…